【開発事例紹介】コーナリングライト制御用 バンク角計測システムの開発
大手スポーツ用具メーカー様と共同で、プレイヤーそれぞれに最適なゴルフ用具を自動的に選択できる「フィッティングシステム」の開発をおこないました。
1.概要
本開発では、スクーターがカーブを曲がる際の車体の傾き(バンク角)を、素早く・正確に計測する方法の検討および開発をおこないました。 この情報をもとに、コーナリングライトを適切なタイミングで点灯させることをねらいとしています。
2. 目的
カーブ中の車体の傾きを、精度よく、かつ時間的な遅延を可能な限り減らして計測できるようにし、実力値の評価をおこなうことを目的としました。 まずは高機能なセンサーを用いて最適な方式を見つけ、そのうえで、将来的に量産しやすいセンサー構成(低コスト)にできるかを検討しました。
3.開発品の構成
本件で開発した「バンク角計測システム」は、大きく分けて①車両に取り付ける計測装置、②PC上の解析ソフト・計算ロジックから構成されています。
①車両に取り付ける計測装置- 使用車両
- センサユニット
- 車体の「向きの変化」
- 上下・左右方向の「動き」
- 直接ボディに固定する方法
- 間に薄いウレタン材を挟んで固定する方法
- 車速信号の取得
- どれくらいの速さで曲がっているか
- どの程度曲がっているか
- 記録装置・電源
市販車に近い条件で評価するため、標準的な250ccスクーターを使用しました。
車体の動きを測るための小型センサを車両の前方カウル部に取り付けました。
このセンサユニットでは、「加速度センサー」「角速度センサー(ジャイロセンサー)」を用いて、
をまとめて計測できるようになっています。取り付け方法については、
の2種類を試し、振動の伝わり方の違いも確認しています。
車両側のスピード信号(車輪の回転パルス)を記録装置に入力し、センサーの情報と同時に記録しました。これにより、
を合わせて評価できる構成としています。
センサの出力と車速信号を保存する専用の記録装置を、シート下付近に搭載しました。 バッテリーから安定して電源を供給し、走行中も連続してデータを記録できるようにしています。 走行の様子は、別途取り付けたビデオカメラでも撮影し、後で「実際の傾き」との比較に使っています。
走行後、記録したデータをPCに取り込み、専用の解析ソフトで「車体の傾き(バンク角)」を計算しています。 今回の開発では、次のような複数の計算方法を比べました。
- 従来の計算方法
- 静的な考え方にもとづく方法
- 車体の動きをモデル化した新しい方法(動的バンク角方式)
- センサに多少のノイズがあっても均しながら計算できる
- カーブの入り始めや抜け際など、変化の大きい場面でもスムーズに追従できる
- 1つのセンサだけで計算する簡略方式(STEP-2)
- モデルを簡略化し、時間ごとの変化だけで追いかける方法
- 上記2「静的な計算結果」をベースに少しずつ修正していく方法
車体の回転の速さ(回転の角度変化の速さ)を積み上げていく方法など、既存の方式のうち比較的わかりやすいものを一通り評価しました。 ただし、時間が経つと少しずつ誤差がたまってしまうといった弱点も確認されました。
「遠心力で外側に押し出される力」と「重力」のつり合いから、理論的に必要な傾き角度を求める考え方です。車速と曲がり方の強さから、傾きの程度を計算しました。
スクーターとライダーをひとつの「固まり」として考え、「どのような力が加わると、どのように傾くか」をモデル化したうえで計算する方式です。このモデルを使うことで、
などの成果を狙います。
量産時のコストを下げるためにセンサを1つに減らし、「車体の向きの変化」と「車速」だけで傾き角を求める計算方法も試しました。具体的には、
の2種類を検討しました。
開発品の性能を確認するため、以下のような走行条件でデータを集めました。
- 半径8mのカーブを、時速10km/20km/30kmで右折・左折それぞれ走行
- 一定の速さでぐるぐる回りながら、意図的にハンドルを振る
- センサの取り付け方法を変える(直接固定/緩衝材を挟んだ固定)
これらの走行条件で、
- センサから計算したバンク角
- 動画から読み取った実際の車体の傾き
を比較し、どの構成・どの計算方法が最も実際の動きに近いかを確認しました。
4.開発成果
新たに考案した方式のうち、上記3の「車体の動き方をモデル化した計算方法(動的バンク角方式)」は映像から計算したデータと実際の傾きの値が近く、カーブ中の変化にも素早く追従できるという結果になりました。
一方で、センサを1つだけに減らした低コスト方式は、反応が遅くなる、値が大きく揺れて不安定になるといった問題があり、開発時の時点では実用が難しいと判断しました。
5.結論、今後の課題
開発した時点では、精度・応答の速さ・安定性のバランスが最も良かった「動的バンク角方式」が採用候補になると考えています。 将来的にはこの方式を前提にしながら、できるだけ安価なセンサ構成を用いて実用化を目指します。
今後の課題としては、以下が挙げられます。
- 量産を見据えたセンサ選定
- コーナリングライト制御との統合評価
今回有望と判断された方式を前提にセンサー性能とコストのバランスを考慮し、どのグレードのものが最適か検討する必要があります。
実際にライト制御と組み合わせた評価を行い、点灯タイミングや誤点灯・誤消灯の有無を確認し、製品としての完成度を高めていきます。